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福岡高等裁判所 昭和32年(ネ)726号 判決 1957年12月26日

控訴人 原告 石田富美子

訴訟代理人 山口敏男

被控訴人 被告 執行励造(相続人 執行シヅヱ) 外三名

訴訟代理人 池田純亮 外一名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は「原判決を取り消す。本件を福岡地方裁判所に差戻す。」との判決を、被控訴人らは、主文同旨の判決を求めた。

事実及び証拠の関係は控訴人において、別紙準備書面の通り陳述し、被控訴人らにおいて、乙第一号証から第三号証までは撤回すると述べた外は、原判決の事実らんに示す通りであるから引用する。

理由

一  被控訴人(甲)に対する訴が却下を免れない所以は、原判決説示の通りである。

二  被控訴人(乙)・(丙)・(丁)に対する訴について。

再審の訴は、法定の再審事由を原因として原訴訟の確定判決を取り消してその効力を消滅させ、原訴訟復活の効果を生じさせることを目的とする訴であるから、その訴の被告は原則として原訴訟の相手方たりし当事者(及びその一般承継人)であるが、原訴訟の最終の口頭弁論終結後の特定承継人で、確定判決の効力を受ける者があるときは、同人に対しても、再審による確定判決取消の効力を及ぼすためには、原訴訟の相手方(又はその一般承継人)の外に、右特定承継人をも被告となしうると解しなければならない。(昭和七年(オ)第三二四四号同八年七月二二日大審院第三民事部判決一二巻二二五六頁は同旨の前提に立つものと解する。)けだし、原訴訟の当事者(又はその一般承継人)間になされた再審の確定判決は、当然には、右の特定承継人に、その効力を及ぼすものではないからである。ところで、被控訴人(乙)は、原訴訟の判決確定後の昭和三一年二月二〇日被控訴人(甲)から本件宅地の贈与を受け、同年三月九日福岡法務局受附第五六六一号をもつて所有権移転登記をなし、被控訴人(丙)の同(丁)に対する継続的製品供給契約に基く債務の物上保証人となり、(丁)との間に昭和三一年四月一〇日根抵当権設定契約をなしたこと及び同設定契約により右宅地につき、同年五月一八日福岡法務局受附第一二五〇〇号をもつて、根抵当権者を(丁)、債務者を(丙)とする根抵当権設定登記の経由されていることは当事者に争がないのであるから、(乙)及び(丁)は原確定判決の効力を亨受する特定承継人というべく、控訴人が(甲)の外に、(乙)及び(丁)をも相手取り再審の訴を提起したこと自体は、当事者を誤つている違法はないといわなければならない。しかし、前記一に説示したように、本件において控訴人主張の再審事由が存しない以上、(乙)(丁)に対する再審の訴は結局却下を免れない。つぎに、(丙)は不動産登記法第一一九条の規定に基いて、前示根抵当権設定契約上の債務者として登記されているに過ぎない者で、確定判決の基礎をなす口頭弁論終結後の特定承継人でないのはもとより、その他本件再審の訴において当事者適格を有する者でないことは前認定よりして明白であるから、(丙)に対する訴もまた却下するの外はない。

三  以上の説示と異なる控訴人の主張は、当裁判所の採用しないところである。原裁判所の判断は、右二につき述べた当裁判所の見解と異なるところがあるけれども、再審の訴を却下した終局の判断は、結局相当であるから、本件控訴を理由なしと認め、民訴第四二三条・第三八四条・第九五条・第八九条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 鹿島重夫 裁判官 秦亘 裁判官 山本茂)

準備書面

一、原判決、判決理由第一項について

原判決は再審被告執行初美、同高田機械工業株式会社、同株式会社日立製作所に対する再審の訴の提起について「再審の訴の当事者たり得るものは……原訴訟の当事者及びその一般承継人その他当事者たり得る適格者に限られ確定判決の効力は受けるが当然には原訴訟の当事者たり得ない特定承継人、その他の利害関係人は再審の訴の当事者たりえず、……」と判示しています。

然しながら東京大学教授兼子一氏著民事訴訟法体系五二二頁及同氏著条解民事訴訟法上巻九八六頁に於て述べられている如く「再審被告は原則として本訴の勝訴の当事者であるが……口頭弁論終結後の特定承継人がある場合には、これに対しても再審に依る判決取消の効力を及ぼすためにはこれをも被告とすることを要すると解す」べきものであります。原判決が「……特定承継人その他の利害関係人は……独立当事者参加或いは引受参加等によつて再審の訴訟に関与すべきであると解するを相当とする」と判示しているのは訴訟経済上より考うるも寧ろ控訴人の主張の妥当なることを裏付けているものと認められます。

二 同第二項について

原判決は民事訴訟法第四百二十条第一項第九号の「判断の遺脱」とは職権調査事項であると否とを問わず、当事者の主張があるのに拘らず之に対する判断を脱漏した場合をいうとの解釈を固執し、右解釈は口頭弁論期日に出頭し主張する機会が与えられなかつた場合には妥当しないとの控訴人の主張に対し口頭弁論期日に出頭の機会の有無によりこの解釈に差異をもうくべき根拠を見出し得ないと判示しております。

大審院昭和十五年二月三日民事三部判決例(昭和一三年(オ)第二三六二号強制執行異議事件民集第一九巻二号一一〇頁)に依れば

(事実) 上告人がその先代の債務に関する被上告人の貸金請求訴訟に於て限定承認の事実を主張立証し適当なる防禦方法を講じなかつたため受訴裁判所がなしたる確定判決に基く被上告人の強制執行に対する請求異議事件につき原審が「受訴裁判所がかかる判決をなしたのは相当であり従つて被上告人がかかる判決に基いて強制執行をなすことも不当でない」と判示したるに対する上告事件につき尚且つ

(判旨) 大審院は法理の根本に遡り不法行為を防止する趣旨を以て

「原審は請求に関する異議の訴の本質を詳にせず単に判決の外形のみに捉われ裁判を為したる違法あるものに該当し原判決は全部破毀を免れず」

と判示しております。

わが国の不動産登記制度は所謂″公信力″は兎に角″公示力″を基本とし確立され、不動産に関する権利の得喪変更は総て登記簿上の記載により調査検討せられ不動産取引の安全も之により保持されています。

本件に於ては被控訴人執行が本訴元訴訟に於て提出し採用された甲第一号証登記簿謄本の記載によれば被控訴人執行主張の所有権取得登記は直接控訴人と同人との間に行われたものでなくその間訴外中央信託銀行株式会社(現安田信託)が介在せるのみならず控訴人が原審昭和三十二年二月八日付準備書面十一頁以下に詳述せる如き記載事実あるに於ては裁判所が不動産登記制度の趣旨に鑑み普通人の注意を以て審理せらるるならば――特に公示送達に依る欠席裁判については慎重審理を要するものと考えます――右記中央信託銀行につき何等かの判断を判決に於て示さるべきは事理の当然であつて極論すれば法律以前の寧ろ経験則社会常識の問題に属するものと認められます。

原判決が「前記甲第一号証の記載より右のような事実が推定できるかどうか、また推定される事実が証人高田豊の証言と矛盾するかどうかを問題にする迄もなく」とされることにより推論すれば仮に被控訴人執行と控訴人との間に更に累次の所有権移転の登記記載がある場合と雖も尚且つ同様民事訴訟法第四百二十条第一項第九号の「判断遺脱」はないものと論断せざるを得ないものと考えられます。

かくの如きは裁判は単に形式のみに捉われず問題の本質を究明し社会正義に立脚して行わるべきものとする前記大審院判決例の趣旨にも反するものであつてわが国不動産登記制度の実際並に吾人の経験則に照し到底承服し難いのであります。

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